
前回の10周年の振り返りでは、病院問題、教育長問題、五輪キャンプ招致問題、市長学歴問題についてまとめてみましたが、この10年の歩みの中でもう一つ大事な問題があります。それが「新聞残紙問題」です。
この件についてはYoutube動画にしましたので、動画のシナリオをサイト上にも掲載いたします。
「新聞残紙」とは、配達されずに処分される新聞の総称です。その中には、新聞社が発行部数を水増しするために、販売店に過剰な仕入れを強いる「押し紙」、新聞販売店が折り込み広告料金を水増しするために、契約件数を上回る過剰な部数を仕入れる「積み紙」、汚損や破損に備える「予備紙」が含まれます。 誰の目にも触れる事なく、毎日ただ印刷されて古紙として処理される大量の「残紙」は、CO2削減に向けて世界が足並みを揃えようとする現在、環境負荷の観点からも大きな問題の一つです。日本の新聞総発行数の20%を「残紙」と仮定すると、1日あたり約53トン、年間では約19,500トンの廃棄紙が発生していることになります。これは、毎年港区の面積に匹敵する森林が減少し、1万台の自動車が1年間に排出するCO2吸収能力が損なわれ続けることを意味します。10年続けば世田谷区の面積相当の砂漠化が進行する可能性があります。 また、広告費を負担している企業や国・地方自治体にとっても、残紙分に対して広告費が発生していることは問題です。同じように20%を残紙と仮定すると、人の目に触れることなく処分される広告による機会損失は、実に年間150億円の規模になります。
山武市では、市の広報紙「広報さんむ」をこれまで新聞折込で配布していました。しかし、新聞の購読率が年々低下し、新聞折込での配布では市民全体に情報を届けることが難しくなってきたことで、現在ではシルバー人材センターによる個別ポスティングに変更されました。その背景には山武ジャーナルの長期間にわたる取材活動の影響も少なくありませんでした。
山武ジャーナルは、広報さんむや議会だよりの折り込みを一手に請け負う「山武市新聞折込組合」組合長、齋藤逸朗氏が代表を務める「齋藤ニュースサービス」の店頭で、配達されていない大量の新聞が、他県ナンバーの古紙回収車に積み込まれる様子を目撃しました。


この事実を記事にしたところ、齋藤ニュースサービスと一部関係者から、記事の削除と謝罪を求める抗議書が届き、これを否定する動きがありました。しかし、山武ジャーナルのさらなる取材で、齋藤ニュースサービスの配達準備作業を観察した結果、配達員がすべて配達に出た後、大量の新聞が梱包を解かれずに店内に運び込まれる様子が明らかになりました。


山武市は、新聞折込組合が毎月提示する部数そのままに広報の折込部数を決定していましたが、過去のデータを遡ると全世帯数を上回る部数が申告されていたことが確認されました。 国勢調査直後の平成27年10月では、蓮沼地区と松尾地区では、全世帯数が4,790世帯であるのに対し、折込部数は6,335部と、世帯数を1,545部も上回る申告がされていました。この数値は、両地区のすべての世帯が新聞を購読し、さらに3割以上の世帯が2紙以上を購読している計算になりますが、その仮定は現実的といえるでしょうか。
しかしこれにより、山武市が新聞折込による広報紙配布を見直すきっかけが生まれ、広報紙「広報さんむ」の配布方法が変更される結果となりました。令和3年4月以降、配布方法はシルバー人材センターによる全戸ポスティングに移行し、無駄な支出の削減につながりました。
山武ジャーナルの最初のスクープと前後して、折込組合長である齋藤逸朗氏の長男、齋藤昌秀氏が山武市議会議員に当選しました。このことで、新聞折り込みによる不当利得が利権化する懸念が生まれました。
しかし、齋藤昌秀前議員は1年目から、台風被害を受けた建物の損害額を過大に見積もることで保険金を水増し請求し、成功報酬を要求しトラブルに発展したことで、市民の信頼を著しく損ないました。また政務活動費の不適切使用により問責決議を受けるなど、市議としての資質を欠く問題行動を繰り返し、市民から強く批判されました。その結果、山武市が広報の配布を新聞折り込みから全戸ポスティングに変更するという政策決定に影響を及ぼすことはあませんでした。
一方で、現職議員の家族が組合長を務める折込組合との取引を見直すという決断を、市民の負担軽減と透明性確保を優先して断行した山武市の対応は英断と言えるでしょう。
その後も、齋藤前議員の問題行動は続き、新型コロナ罹患中の隔離期間に夜間外出をするなど不適切な行為が報じられ、二期目の選挙には立候補せず公職から退く形となりました。
新聞残紙問題は、新聞社が強大な影響力を持つメディアとして、自浄作用を欠いた結果、不正行為が長年放置されて今に至ります。インターネットの普及で、地道な取材を続けるフリーランスのジャーナリストの発信なども広く知られるようになり、押し紙問題を巡る議論は徐々に広がりを見せていますが、具体的な改善策はなかなか実行されていないのが現状です。
しかし、山武市では、山武ジャーナルの取材をきっかけに、折込配布の問題に気づき、配布方法を全戸ポスティングに変更するという具体的な行動に踏み切りました。このような取り組みは、地方自治体における課題解決の模範となると考えられます。
ただし、選挙公報に限っては他に手段がないという理由で、引き続き折込組合に依頼して新聞折り込みを継続しています。選挙公報は、有権者への情報提供という観点で重要な役割を果たしますが、その配布方法の限界が露呈するという新たな問題も発生しています。この件について、山武ジャーナルは引き続き取材を続けていきます。
山武ジャーナルの取材を契機に、山武市では広報紙の配布方法を見直し、問題解決に向けた第一歩を踏み出しました。長年新聞折込組合が提示する部数をそのまま受け入れ、全世帯数を上回る部数だった際にもチェック機能が働かなかった点は課題として残りますが、山武市のこの取り組みは、全国の自治体にとって一つのモデルケースとなる可能性があります。選挙公報の配布方法についても、新聞折り込み以外のより良い手段を模索し、透明性の高い行政運営が広がることを期待したいです。